vol.45 生まれつき全盲の人は夢を見る? 大好きな友人S子さん
8割引きの世界
生まれつき光も感じない全盲で、高等盲学校で教鞭を執る友人のS子さん。
彼女は言います。
「人が得る情報の8割は視覚からと言われています。私は、その8割引の世界に住んでいる訳です。これがバーゲンセールなら良いのにね」
なんとウィットに富んだ表現!彼女の著書でその言葉を最初に読んだ時は唸りました。
番組の取材をきっかけに知り合い、今も時々一緒に飲みに出かけます。
「百聞は一触にしかず」これは、彼女の尊敬する先生のお言葉とのことですが、まさに彼女はその言葉を体現しています。
バリアフリー観覧を実践している小樽市総合博物館の取材に同行頂いた時も(そもそもそのネタは彼女から教えてもらいました…感謝)、博物館職員の方に案内頂きながら、アイヌ伝統衣装やかつてニシン漁につかわれた道具類、小樽運河沿いに残る建物の建材などなど様々なものを触り、その感触を吸収。
一緒にファイターズ戦に出かけ、広いドームでの臨場感を楽しみながら観戦。最初こそ、応援グッズを持つ彼女の手を私がとって、応援歌に合わせた叩き方をリードするものの、すぐに習得して自ら打ち鳴らし、味方のヒットに前後左右の人とメガホンを鳴らし合ったり、そして、く〜っ!…と、応援しながら格別美味しいビールを楽しんだり。
全盲の人は夢をみる?
そんな彼女に一度、夢を見るか?きいたことがありました。
彼女は、
「うん、見るのよ。厳密には聴くのといった方が良いかもしれないわね。
音で“見る”のよ」
そして色についてはどんな認識を持っているのかも聴いてみました。
「赤とか、ピンクとかは、手で触れた時に温かく感じるイメージで、青とか緑とかはひんやりしたイメージ」
私の母は、私が彼女と博物館や野球観戦に行くというと、
「目が見えないなら、行っても楽しくないんじゃない?」と言います。
私も彼女に出会わなかったら、そう思っていたかも知れません。
しかし、会うほど、一緒におしゃべりするほどS子さんの
人として、物事や出来事を楽しみ、挑戦し、吸収し、そして、ウイットに富んだ表現で発信する…その豊かな感性に圧倒されるのです。
同じ表現する者として嫉妬すら感じます!(笑)
バリアフリーとは、障害がある人に何か手助けをすることではなく、
人として、様々な違った角度から人生にアプローチする方法を伝え合うことなのだと、私の友人達が教えてくれるのです。
2019.9.10