vol.52 重子さんとの酒場放浪記

土曜日の夕方に待ち合わせて…

これまでも何度かS子さんという名前で、このコラムに登場頂いていた全盲の友人の吉田重子(よしだ しげこ)さん。

先日、久しぶりに一緒に呑みに行った時に、名前を出すのを快諾下さったので、晴れて重子さんと書かせて頂きます(感謝)。

土曜日の夕方。三角山放送局でのパーソナリティの仕事を16時に終えた重子さんと、地下鉄駅の改札で待ち合わせて、ちょっと早めの呑みに繰り出しました。

その日、初めて行く本命の店の開店までまだ1時間あったので、

地下鉄駅直結のとある居酒屋のビール一杯タダ券を重子さんが持っているというので、待ち呑みすることに。

いつも混み合っているその店は、さすがにまだ早い時間だけあって、カウンターに2人の先客がいるのみ。2人向かい合わせの席が空いていたので、

私は、「この席にしましょう〜。こちらで〜す」と、重子さんの手をとって、イスの背もたれに触れてもらいました。

すると、重子さんは、そのイスの背から座面へと手を滑らせて座る位置を確認。すとんと自分で座って、手際よく持っていた白杖をパタパタと折りたたみ、鞄へ。

「まず飲み物頼みましょうか」「私はビールで」「私も〜」と、注文し…

私「重子さん、今日は、魚、肉いろいろな…ざっと10品のおすすめがあるみたいです。読み上げますね」

と、上から順に読み上げていく中で、

重子さんが「あら、それ美味しそうね」「良い感じ」と、反応。

中から「半熟卵の天ぷら」と「たこの唐揚げ」をオーダーしました。

私はすでにテーブルに置いてあった取り分け用の小皿にたこの唐揚げをいくつかと盛り付け、重子さんの前に置き、その皿を重子さんの指にちょっとだけ触れさせて、「ここです」と言うだけ。

重子さんは、指をテーブルの上に這わせるようにして、箸の位置、皿の位置、ビールジョッキの位置を確認し、自分で箸をとって召し上がります。

半熟卵の天ぷらは、深めのボール状の焼き物の器に、汁をはった状態で出てきたので、私は、半分を自分の皿に取り、重子さんへは、そのボール状の器のまま押しだし、「失礼しますね」と、重子さんの手をとって、その器に軽く触れて貰い、「これが半熟卵の天ぷらです。下に天つゆがあるので気をつけて召し上がって下さい」と言うだけ。

よく、全盲の人と食事ってどうするの?と聞かれますが、

重子さんは、全盲のまま生きていらしたその道の達人(笑)。

私がすべきことを、呑みに行く度にどうしたら良いか尋ねて、教えてもらってきました。

障害がある人自身が答えを持っていらっしゃいます。

お店の雰囲気を実況中継

その後に行った、初めての炭火焼き屋さんでは、

私「このお店は、照明がすこし暗めで大人な雰囲気を演出してます。壁は白のしっくいで、西洋アンティークっぽいインテリア。ですが、入り口の扉は、日本の昔の蔵についていた重厚な感じです」

と、雰囲気を実況中継したり…

私「マスターの笑顔がすっごく優しいです。」

重子さん「声の感じでもそれが分かるわ」とか。

一緒に楽しむのに、必要なフォローは本人から習う。

こうしたスタンスはどんな障害の人にも共通です。

違う視点の世界に触れることは、まさに旅行にも匹敵する魅力があります。

いながらにして、障害を通したそうした違いを知り、感じることは、とてもエキサイティングです。

以前に、重子さんに番組に出演頂いた時、リポーターさんが、「重子さんと一緒に仕事すると、物事の描写力が鍛えられる気がする!」と、言っていたことを思い出しました。

視覚に障害がある人とお付き合いすると、言葉の表現力も研かれるという特典ももれなくついてきます(笑)。

2019.9.19

 

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