バリアフリーを個の努力から解放する〜システムで取り組む未来型バリアフリー考察③ no.156
(すっかり間が空いてしまい、ごめんなさい!)
バリアフリーを個の努力から解放する〜システムで取り組むバリアフリー3回目は、
前回ご紹介した伊勢志摩バリアフリーツアーセンターが、行政や地元の人々とどのように連携しているかについてご紹介します。
*地域の店、旅館、ホテル等のバリアフリー現状調査with当事者スタッフ
伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの活動の原点が、車いすで行けるお店マップ作りだったこともあり、
とにかく、伊勢・志摩・鳥羽にある様々な店、旅館、ホテルなどを、バリアフリー目線でくまなく調査しました。
その結果はHPにアップし、いつでも閲覧することができます。
そして、更新も欠かしません。(これが大切ですよね。)
調査には、時には車いすユーザーや視覚、聴覚、高齢者などの“身体になんらかの不自由がある”当事者スタッフも同行します。
その時、「ここはバリアががある」と、断じるだけではなく、
もし、障がいがある人が訪れたらどう対処したら良いか、今後、どう改善したら良いかもアドバイス。
お店などにとっては、「バリア調査する」というだけで「バリアだらけ!」と断じられるのではないかと、
身構えてしまう所もありますが、そこは、「あ、この位でしたら全然大丈夫ですよ〜。もしつっかかるようなら手助けしてさしあげて下さいね。方法はこんな感じ…」と、
やんわり、楽しく会話しながら、“バリアフリーは難しくないですよ〜”と伝え、会話することで信頼関係を結ぶ。
すると、お店側もバリア関係で疑問や質問があったら、気軽に問い合わせしてくれるようになる…という訳です。
私見ですが…このセンターで中心的に活動しているのは女性で、みな、芯のとおった強さがありつつ、
ほんわかした空気をもった人達。そうした調査・アドバイス・信頼関係構築には、案外女性の方が向いているのかも…と思ったりします。
一口に車いすユーザーといっても、腕を動かせる人などは、ちょっとした段差はひょいっと前輪をあげたウィリー状態で上がれちゃう場合もありますので、
段差=バリア→バリアフリーじゃない!と、決めつけず、
「何㎝位の段差」かを文字と写真両方で表記します。
すると、利用したい人自身で自力で上がれるか、手助けが必要か?を判断することができます。
*伊勢観光に来る客からの問い合わせ窓口&アドバイス+地元の協力
伊勢志摩バリアフリーツアーセンターは、“伊勢志摩”と言いつつ鳥羽にあります(笑)。
鳥羽駅から連絡通路でつながっている商業ビル「鳥羽一番街」の一階に窓口&オフィスがあり、スタッフがほぼ無休(*)で常駐しています。(*)鳥羽一番街の休館日は休み
そこで、電話やメールによる、伊勢志摩鳥羽観光におけるバリアフリー問い合わせを一手に受けています。
そして、その“駅直結の好立地”たる鳥羽一番街の地主さんが、活動に賛同し、格安の家賃で貸してくれている。
また、地元のホテルや旅館が、賛助会員として年会費1万円を払い、資金的援助を行っています。
ここでも“個”で奮闘するのではなく、地元の観光業に携わる人々ができることで協力してくれているのは、活動の大きな原動力になっています。
そして、バリアフリー観光アドバイスをする上で大切なのは、単に「バリアフリーの場所を案内する」のではないこと。
先ほどの「わたしたちのこと」ページにもありますが、一番のモットーは独自に編み出した…
パーソナルバリアフリー基準
その心は…
『「行けるところ」よりも「行きたいところ」へ!』。
ハード面だけのバリアフリー情報を提供するのではなく、
「車いすユーザーだが、温泉に入りたい」
「高齢で足の悪いおばちゃんと一緒にお伊勢さんでお参りの後、買い物を楽しみたい」
「電動車いすなので、レンタカー借りて、景色の良いところをドライブし、新鮮な伊勢エビを食べたい」など、
まず旅で何を楽しみたいかを聞き、それが実現できる場所を紹介したり、身体の状態に即してどうしたらそれが叶うかを一緒に考える…というスタンス。
その人の身体の状態と希望に合わせ、バリアフリー旅行をコーディネートするのを信条としています。
単にハード面のバリアフリーに限定するのではない、こうした取り組み方も、とても理にかなっていると思う訳です。
また、地域のバリアフリー情報を一箇所に集約していることの強み
をいかんなく発揮するのが=地域全体でバリアフリー観光を実現できること。
どういうことかというと…
例えば、食堂が2階にあり、しかもエレベーターが無い旅館の場合、車いすの人的にはお勧めできなくとも、
そこが、海の音が聞こえ、潮の香りが楽しめることが調査が分かっていれば、
目の不自由な人には楽しい旅館としておすすめできる。
要するに、一箇所で車いす、高齢者、視覚障害、聴覚障害、赤ちゃん連れ…すべてのバリアフリーを完結させようするのではなく、
それぞれの場所の特性を調査し、地域で分散して受け入れる。
結果、バリアフリー旅を地域資源・特性を生かしつつ、実現しているという訳です。
*バリアフリー改装・改築アドバイス〜行政との連携
伊勢志摩は、前回のこのコラムでもお話したように、昔ながらの歴史を感じる旅館も数多く、
部屋の入り口が小上がり風だったり、畳敷きだったり、トイレが和式だったり、風呂に入るにも段差が多かったり…様々ないわゆる物理的バリアがあります。
しかし、そうした風情がまた伊勢観光の魅力である訳で、しかし、どうにかしてそうした雰囲気を残したままに、
快適性を担保する方法として、伊勢市では、バリアフリー改装に数百万円支給する制度を作り、
ただ、むやみに段差を削るのではなく、風情を程よく残して行うアドバイスを伊勢志摩バリアフリーツアーセンターに委託しました。
言い換えると、補助金交付の条件に「バリアフリーツアーセンターの助言を受けること」にしたのです。
これは、バリアフリーツアーセンターの女性スタッフさんの中に2級建築士の資格を持っている人がいる上、
伊勢市というやや規模が小さく小回りが利く自治体だからこその「ピンポイントで業者を指名できる」制度であり、他の市町村すべてで実施するには、色々工夫が必要そうですが、
しっかりとした建築の知識と、フレキシブルなバリアフリー知見をもったスタッフによる助言は、これがなかなか興味深いのです。
すべてのお部屋ではなく、旅館の中に一箇所だけハード的バリアを無くした部屋を作ったり、
一箇所だけバリアフリートイレを作っておいたり、
また、部屋自体は手すりや靴を脱ぎ履きするときに座るイスを設けることでクリアにしたり。
車いすで届かないハンガーラックにS字フックをつけたり…
大きな改装を大金かけて行うのではなく、ちょっとした工夫で、身体に不自由があっても楽しめる空間に変えることで、多くの旅館が息を吹き返しました。
前出の日の出旅館も、一時は閉めることも考えたそうですが、一念発起して玄関、トイレ、洗面台を風情を残しつつバリアフリー改装し、2つのお部屋繋げてユニバーサルルームを作ったりしたことで、予約の絶えない旅館へに再生しました。
まとめ〜
いつでもバリアフリー観光に関しては、ワンストップでなんでも聞けたり相談できる拠点を、
行政、地元観光業者などが連携・協力して運営するシステムは、
バリアフリーを個の努力から解放し、持続可能なバリアフリー観光のみならず、まちづくりなどにおける
環境整備にも大いに役立つと考えます。
少子・高齢化はまったなし!
多様性もどんどん広がっていきます。
コロナ禍とはいえ、いつかはまたインバウンド需要もまた増えてゆくでしょう。
バリアフリーを個の努力から解放することを真剣に考えてみませんか?
2020.9.25