vol.63 人を魅了する人
自立生活を目指し、病院を飛び出したきみよさん
ベンチレーター使用者ネットワークや自立生活センターさっぽろ代表の
佐藤きみよさんは、札幌にこの人あり!と言われる有名な障害当事者であり、女が女に惚れる…素敵な女性だ。
進行性筋萎縮症で、12歳の時からベンチレーター(人工呼吸器)をつけ、今は、ベッド式の車いす=ストレッチャーに乗って生活している。
佐藤さんが幼い頃は、人工呼吸器は“冷蔵庫ほどの大きさだった”らしい。それに24時間繋がれた状態で過ごす毎日に喜美代さんは心底絶望し、
「死んでも良い」「3日でも良い」と、自立生活を目指して20代の時に病院を飛び出した。呼吸器を外に持ち出して生活するなど、当時は、宇宙に行きたいというのに等しかったという。
24時間介助が必要なきみよさんはそれから、自分のみならず、他の障害がある人が地域で暮せる社会の実現を目指し、権利の獲得や施設、交通機関のバリアフリー化を求める運動・活動に身を投じた。
佐藤さんと仲間の皆さん達の運動によって、どれだけの固き門がこじ開けられてきたか知れない…もう、とにかく、凄い人なのだ。
ここまで読むと、どんな豪快な人だろうと思うが、きみよさん自身は、ピンクや赤のフリルのついた服を好んで着る、顔は色白でふわりとしたソバージュヘア、むしろ透明感ある雰囲気の美しい人だ。
フィリピンから乳飲み子を引き取り、養女として育てるきみよさんは、
「娘と一緒に街に出かけ、疲れてくると、“ママは歩けなくて良いなぁ、車いすで良いなぁ”…なんて言います。車いすでかわいそうと言われることはあっても、うらやましいと言われるなんて」と、笑います。
出会った瞬間に魅了された!
そんな、彼女との最初の出逢いは、番組への出演を依頼し、その打ち合わせに伺った時だった。“武勇伝”の数々を事前に読んだり聞いたりしていたので、正直少々緊張して出かけたのを覚えている。
しかして、私は、約束より少し早い時間に彼女の事務所「自立生活センターさっぽろ」に到着してしまい、事務所の中で帰りを待たせて頂いていた。
彼女の乗ったワゴン車が止まるのが見え、やがて、彼女の乗った車いすが下ろされる。
喜美代さんは、病気のために身体が少々左に湾曲していて、私のいる方向とは逆むきで横たわった状態。
事務所からでた私は、「佐藤さん、uhbの山田です」と少し離れた所から声をかけた。
すると、彼女はこう言った。
「山田さん!初めまして〜!私、佐藤です。お待たせしてました?ごめんなさいね。
私ね、こんな身体だから、そちらに向けないんです。恐れ入りますが、
こちら側に回ってきて下さいません?」
重度の障害がある人に出会うと、私達は、正直どう接していいのか迷い、たじろぐ。
様々な障害がある人に日頃会っている私もそれは同じ。しかも、相手は、あの佐藤氏である。
しかし、彼女は、私との出逢いを楽しみにしていたと言ってくれ、
身体が曲がっていることで手鏡で後ろの景色を見る自分を「面白いでしょ?」と笑い、堂々と、爽やかに、私がどう接したらいいのか喝破。あっという言う間に緊張した心をほぐし、すっと、自分の世界の中に入れて下さった。
私は、たちどころに彼女に魅了されていた。
まさに、きみよさんは、女が惚れる女であり、人としての強さとしなやかさ、そして美しさを身につけた人。
フェイスブックで、昨日誕生日を迎えられたことを知り、思い出を書かせて頂きました。
2019.10.4
〈参考〉
ボラナビ「佐藤きみよ」
http://www.npohokkaido.jp/volunavi/modules/monthly/index.php?content_id=227