vol.72 「集合的無知」を脱する〜心の避難訓練

非常時における独特な行動心理「集合的無知」

かつて「偏見」について北海道医療大学で心理学を教えるD教授を取材した時のこと。

非常時におけるヒトの行動に関し、とても興味深いお話を伺ったことがありました。

それは…

ヒトは、見慣れないモノやコトを目撃するなど、

非日常的な場面に遭遇した時、「集合的無知」に陥るというのです。

そのお話は、私から教授に

「車いすの人が段差の前で立ち往生するなど、困っている場面に出くわしても、周囲にいる誰も動かずただ傍観しているだけ…といった状況がなぜ生まれるのか?」についておたずねした時に出ました。

集合的無知は「同調性バイアス」とも呼ばれる集団心理の一つで、

人々が行き交う雑踏

サンサンさんbyPhotoAC

これにより、東日本大震災の時、津波の襲来を知りつつ、逃げ遅れて多くの人が命を落す結果を招いた原因として広く知られるようになりました。

その心理的プロセスはこうです。

① ヒトは大勢の中にいる場合、周りに合わせようとする心理が働いている(他人と違う行動をとることに不安を覚える)

②周りにいる誰も動かない(頭の中で、異常なことを正常なことにすりかえようとする「正常性バイアス」という心理が働いている)

③周りの人と同じ行動をとっているのだから、この行動は正しい…と思い込む。

結果、車いすの人が困っている場面に遭遇しても傍観状態になったり、津波が来ることを報されていてもそこにとどまってしまう状況が生まれるというのです。

「集合的無知」から脱する方法

さらに興味深かったのは、その集合的無知には脱し方があるということ。

海の方を眺めている人

acworksさんbyPhotoAC

なんと、D教授から「集合的無知」についての授業を受けた学生が、その直後に「自殺をはかろうとしている人」を助けたというのです。

D教授から「集合的無知」について聞いたばかりの学生が、バイト先に向かう途中、

男の人が、橋の欄干を乗り越えて川へ飛び込み自殺しようとしている場面に遭遇…、

周囲には大勢の人がいながら、みな一様にただ眺めているだけ………、しかし、その学生が

「私は今、集合的無知に陥っている!」と意識したことで、その心理状態から脱し、

飛び降りようとしている人にむかって突進。

すると、周囲の人々も我に返ったように次々に駆け寄り、自殺を食い止めることができたというのです。

そう、「集合的無知」は、

「今、自分は集合的無知状態にいる!」と、自覚することで脱することができるのです。

災害など不慣れな状況下では、こうした集団心理は、時に命にかかわります。

日頃から意識することで、陥らないように気をつけることが、心の避難訓練になるのかもしれません。

2019.10.17

 

 

 

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