vol.91 消えた車名〜真のユニバーサルデザインとなったHonda 「N-BOX」①
9月に開催された「東京国際福祉機器展」にでかけた時、一つ疑問に思うことがありました。
それは、自動車の「Honda」ブースに立ち寄った時…
福祉車両界に革命を起こした「N-BOX+(エヌボックスプラス)」という車名が、消えていたことでした。
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「N-BOX+(エヌボックスプラス)」が発売されたのは、2012年7月6日。
それまでにはなかった
軽自動車で最初からスロープが付けられるよう設計され、
四駆で、車いすで乗車しない時は下からシートを出して普段使いできる、しかも、
通常の軽自動車とほぼ変わらない価格!
という画期的な福祉車両として発売されました。
当時担当していた番組で「これぞユニバーサルデザイン!」と、喜びいさんでディーラーに取材に行ったことを覚えています。
それというのも、当時も今も“福祉車両”と呼ばれる車いすで乗車できる車は、通常の車に比べて価格も高く、いかにも「それ」といった雰囲気で、完全に他の車とは、区別された特別車両でした。
それをHondaは、購入時のオプションとしてカーオーディオやナビをつけるのと同じ感覚で、スロープが付けられるよう設計し、
車いすのみならず、自転車、台車、ベビーカー、北海道では除雪機など、
タイヤ付きで重量のあるものを乗せるのに便利な車として開発。
まさに「普段使い」を想定した誰にでも便利な車として登場。
当時Hondaは軽自動車の分野で後発・どん底だったにもかかわらず、
起死回生の成功を収めたのです。
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それから10年近くが経ち、国際福祉機器展の会場で再びまみえることを疑わず立ち寄ったHondaブースに、果たして…
「N-BOX+(エヌボックスプラス)」はありませんでした。
廃版になってしまったの?と、思いましたが、そうではなく、
通常の「N-BOX(エヌボックス)」シリーズの一つとなっていのです。
ブースにいたコンパニオンに「N-BOX+(エヌボックスプラス)」は無くなったんですか?とたずねても、何を聞かれているのか分からなそうな顔で、判然としません。
そして、先日、調べてみて、その真相が分かりました。
2018年4月に「N-BOX」シリーズの一つとして「スロープ仕様車」が新たに位置づけられた時点で、N-BOX+という名前は無くなりました。それは…
「実際にお使いになったお客様から、特別な仕様ということがわからないようにしてもらいたいという声を頂きましたので、N-BOXのバリエーションの一つという形で新たに開発した」とのこと。
多くのお客さんに支持されたが故に、福祉車両として分ける必要がなくなったという訳です。
戦争で片腕をなくした兵士が一人でたばこの火が付けられるようにと作られたライターしかり、
ひねるという動作が困難な人のために作られたレバー式の蛇口しかり、
耳の不自由な親族のための補助機器を作ろうとしたグラハム・ベルが作った電話しかり、
障害がある人のみならず、多くの人にとって使い易い真のユニバーサルデザインなものほど、その存在は当たり前なものとして生活に溶け込んでしまいます。
「N-BOX+(エヌボックスプラス)」は、福祉車両という枠にはめる必要がない位に誰にとっても使い易い車として普通車の中に溶け込んでしまった…だから車名が消えたという訳です。
なぜ、他の福祉車両と違い、このようなUD的に高度な完成領域に達したのか…その答えは、
開発の第一歩…「福祉車両を作るのに、福祉車両を否定するところ」から始めたスタート地点にありました。
2012年に番組で取材させて頂いた、開発担当責任者 浅木さんの言葉に10年後の答えがありました。
明日ご紹介します!お楽しみに!
2019.11.14