vol.6 ビールが美味しかった夜
次から次へと声が…でも!?
時々一緒に呑みに行く全盲の友人 重子さん。
(皆さん、目が不自由な人を案内する時、どうしたら良いかご存知ですか? 白杖を持っていない方の手で自分の腕に触れてもらい一緒に歩く、それだけで良いんです)
その重子さんと待ち合わせをして夜な夜な酒場へ繰り出した時の話。
待ち合わせ場所から、バス→地下鉄と乗り継いだのですが、バスに乗っても、地下鉄に乗っても、その度に「どうぞ」と誰かが席を譲って下さろうとする。
「あ、大丈夫です。ありがとうございます」と、その都度恐縮しながらお断りしたのですが(二人とも日頃運動不足のため)、あまりに何度も声をかけてもらうので、「なかなか世の中捨てたもんじゃないですねぇ」と、私。
しかし、重子さんは首をかしげながら
「それがね、同伴者がいる時の方が声をかけてもらえるのよ」といいます。
肝心の、一人でいる時には、あまり声がかからないというのです。
迷っている内にタイミングを逃している
「なぜ?」。しばし、店に着くまで、その謎解き議論に花が咲きました。
結局、実は皆、声をかけたい気持ちは十二分にあり、同伴者がいれば目線を合わせるなどきっかけをつかめるが、普段、全盲の人に声をかけ慣れていないだけに、どう声をかけ、コミュニケーションをしたら良いか迷っている内にタイミングを逃してしまうのではないか、という結論に至りました。
「声が無ければ、心も無い」訳ではないのです。
その後のビールの美味しかったこと。
(2012年北海道新聞「朝の食卓」再録)