vol.56 バリアフリーは、“してあげること”ではなく、“学ぶ”こと
目の不自由な人も映画を見る
目の不自由な人も映画を見ます。
大音量と臨場感を味わいながら、台詞や音声でストーリーを楽しめるため、
実は、「映画が好き」という視覚障害の方も多いのです。が、しかし、劇中で流れる音や台詞だけでは人の動きや情景が分かりません。
そこで生まれたのが「音声ガイド」。
先日、旭川で行われたバリアフリー映画祭では、スピーカーを設置し、「音声ガイド」を会場内に流していました。
音声ガイドは、人物の動きや情景など、「その情報がなければ映画のストーリーがつかめない」要素を抽出して言葉で描き、ナレーションでフォローするもの。
🔉 ○○が部屋に入ってくる
🔉 △△が耳をふさいでしゃがみこむ
🔉 急に風が吹いて、木の葉が舞い上がる
など、鑑賞の妨げにならないよう、台詞と台詞の短い間に流す必要がある、とても高度な技術と準備を必要とするもの。
かつて取材した函館近くの街・北斗市で行われていた「ユニバーサル上映映画祭」では、地元のボランティアさん達がおよそ半年をかけて一つの映画で流すガイド用の原稿を作り、テープに吹き込んで、製作していました。
それだけに、音声ガイドつきの映画が見られるのは、すでに、映画館での上映は終わっている旧作でした。
しかし、最近、そうした音声ガイドを専門に作る会社が出来、早いものでは、映画の公開に合わせ、同時に配信される作品も出てきました…なんと画期的!
それら音声ガイドは、携帯アプリを通じて、誰もが入手できます。
携帯アプリの名前は「UDCast(ユーディーキャスト)」。
palabra(パラブラ)株式会社さんが提供しています。
UDCastのサイトには、対応している作品リストがあり、そこには、今、日本全国の映画館で上映されている最新作がずらり!
誰もが、自分のスマホに、アプリをダウンロードした上で、それら音声データをダウンロードすれば、利用できるのです(素晴らしい!)。
利用した人の声も掲載されていて…
「UDCastが映像と私を言葉でつないでくれました。
言葉が映画の道しるべとなり、心の振幅を大きくしてくれました。
そして、劇場を包み込む感動といっしょになる時間を与えてくれました。
(視覚障害 全盲 男性 札幌在住)
(これまでは、)一緒に行った人に、いちいち「今の何だったの?」とか聞かなきゃならなかったり、聞かれた方も面倒だなとか思うだろうと遠慮していました。
UDCastで映画を観ました。すると、なんてことでしょう。
最後まで楽しむことができました。ぜひ、また行きたいと思います。
(視覚障害 全盲 女性 札幌在住)
バリアフリーは学ぶこと
障害がある人にとっての“ささやかな当たり前”を阻むバリアには、主に4つあると言われています。
段差などの「物理的なバリア」「制度的バリア」「心のバリア」そして、「情報のバリア」です。
「UDCast」は、まさに、「情報のバリア」をフリーにする画期的なシステムで、
音声のみならず、聴覚に障害がある人へ、台詞を“字幕”で表示するサービスも配信しています。
今回の旭川の映画祭では、スクリーンの下部に、外国語映画に翻訳の字幕が表示されるのと同じように、日本語の字幕が表示されていましたが、
眼鏡型の端末を備えている劇場では、必要な人だけが眼鏡をかけることで字幕が見られるシステムもあるようです。
旭川のイオンシネマの支配人さんの話によると、眼鏡型の端末は1つ30万円(!?)するそうなので…なかなかどこの映画館でもとはすぐにはいかないようですが、
当たり前になれば、きっと価格も下がり、もっと身近なものになってゆってくれると期待します。
長寿社会の今。高齢になって、身体に不自由が現れても当たり前を諦めずに済む社会は、今、障害がある人達の声に学ぶことが改善の糸口になる…
バリアフリーは、障害がある人を助けることではなく、学んで進めてゆくことではないでしょうか。
2019.9.25